「ビットコインの採掘って何?」では、ビットコインの採掘(マイニング)とは、ビットコインの新しい取引を「正しい取引」として認めるために、コンピューター(採掘マシン)で複雑な計算問題を解いて、どのコンピューターよりも最初に問題を解いたら、ビットコインが報酬としてもらえることであると説明しました。複雑な計算問題を解いたコンピューターが、新しい取引を記録する「権利」を得ることができます。
1. PoWとは?複雑な計算問題を解くという「作業」を行う結果、正しい取引が認証される、という仕組みのことを、専門用語で、「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、略称PoW)」と言います。日本語に訳すと「作業の証明」となります。
このように、「作業の証明」のルールを使うと、報酬としてのビットコインを得ようとする競争、すなわち、正しい取引を記録するための「競争」が生じ、その結果、安全な仮想通貨の取引が可能となります。
2. PoSとは?
ある仮想通貨の取引が「正しい」ものであると認証をする為の仕組みは、PoW(作業の証明)が唯一の仕組みではありません。特にこの数年、ビットコインのマイニングは、電気を大量に使うことから、環境への負担が大きいという批判が相次いだことから、ビットコイン以外の多くの通貨が、PoWとは違う仕組みで、「正しい」取引の認証を行うようになっています。その仕組みのことを、専門用語で、「プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、略称PoS)」といいます。
PoSは、「持分の証明」を意味します。ここでいう「持分」は、その人が持っている仮想通貨の量です。PoSは「ある仮想通貨をいっぱい保有している人は、その仮想通貨の価値が下がらないようにするために、偽の取引や攻撃的な行動をしないだろう」という前提をおいています。つまり、多くの仮想通貨を保有することで、その仮想通貨のネットワークに大きな影響力を持つことになりますが、その影響力を悪用すれば自分が持っている仮想通貨の価値が下がり、自身の資産の価値が目減りするリスクに直面します。そのため、その仮想通貨をいっぱい保有する人は、ネットワークを守るインセンティブを持ちます。
PoWでは採掘(マイニング)をして報酬を得るのに対して、PoSでは「ステーキング」をすることで報酬を得ます。「ステーキング」はイメージとしては「預託」に近いものになります。要はブロックを生成する権利を得るために仮想通貨を特定のコンピューターに預けることがステーキングです。ステーキングは、その仮想通貨をいっぱい持つ人の、その仮想通貨のネットワークに対する信頼や、貢献度を表します。
大きな「持ち分」(ステーク)を持つ人は、そのネットワークに大きな投資をしているとも言えるため、大きな持ち分を持つ人が、ネットワークの安全性と信頼性を維持するために必要な仕事を行い、その報酬として新たな仮想通貨を得ることができます。
具体的には、ステーキングをする時には、一部の仮想通貨を特定のウォレットに預けて、その通貨のブロックチェーンのセキュリティを支えます。ステーキングに参加すると、預けた通貨の量に応じて報酬を受け取ることができます。PoSを採用する主な仮想通貨の例を見てみましょう。
(i) イーサリアム:仮想通貨で2番目に時価総額(仮想通貨の価値の合計額)が大きいイーサリアムは、当初はビットコインと同じPoWを採用していました。PoWが電気を大量に使うことから環境に大きな負担がかかっているという批判の高まりの中、イーサリアムは2022年9月のアップグレード時に、PoWからPoSに移行しました。ユーザーは32 ETHをステーキングすることで、ネットワークのバリデータ(検証者)になることができます。バリデータは新たなブロックの生成や取引の検証を行い、その報酬としてETHを受け取ることができます。バリデータにならない場合でも、ステーキングをサービスとして提供しているバリデータにETHを預けても、バリデータの手数料が控除された後の報酬がもらえます。
(ii) カルダノ(ADA):Cardanoネットワークでは、多数あるステーキング・プールのいずれかにADAをステーキングすることでネットワークのセキュリティを支え、新たなブロックの生成に関与することができます。ステーキングに参加すると、参加者はその報酬としてADAを受け取ることができます。
(iii) Tezos(XTZ):Tezosでは、XTZをステーキングすることで(Tezosでは「ベイキング(Baking)」と呼ばれています)、ユーザーはネットワークのセキュリティを支えることができます。ベイキングに参加すると、新たなブロックの生成や取引の検証を行うことができ、その報酬としてXTZを受け取ることができます。
PoWが優れているのか、PoSが優れているのか、仮想通貨業界では議論が続いていますが、私たちは、PoWこそが仮想通貨にとって大事であると考え、支持しています。なぜなら、「PoW(作業の証明)」の仕組みでは、その仮想通貨を持っていない人も含め、誰でも平等に新しい取引を記録する権利を得ることができ、より公平で安全な仮想通貨の取引を実現できるからです。
「PoS(持分の証明)」の仕組みでは、多くの仮想通貨を持っている人がさらに多くの仮想通貨を得る可能性があり、その結果、長期的には一部の富裕層だけがさらに富を増やす結果になるのではないか心配です。また、仮想通貨を多く持っている人が取引を記録するため、その人が偽の取引を記録するリスクもゼロではありません。
また、PoWは大量に電気を使うことから、環境への負担が大きいという批判があります。この批判はPoSを採用する仮想通貨の関係者からだけでなくて、ビットコインを始めとする仮想通貨全体に批判的な既得権益層(米ドル、ユーロ、日本円などの法定通貨の関係者)からも良くなされる批判です。しかし、私たちは、この「環境への負荷」という批判は一面的な見方で、全体像を把握するためには、米ドル、ユーロ、日本円等の伝統的なお金(フィアット・マネー)のシステムが環境に及ぼす影響も考える必要があります。
例えば、アメリカドルの価値は、アメリカの軍事力によっても裏付けられています。軍事力を維持し、アメリカドルの価値を保つためには、膨大な物資、人員、エネルギーが必要です。実際、アメリカ軍は世界最大の燃料消費を行う組織で、その環境への影響は計り知れません。
これに対して、ビットコインの「作業の証明」(PoW)による電力消費は、全世界の電力消費量の一部に過ぎません。つまり、ビットコインが環境に与える影響は法定通貨がもたらす環境への負担と比べても小さいと言えます。
さらに、ビットコインの採掘には、持続可能な電力(環境に優しい電力)を利用する採掘業者が増えており、その環境への影響は時間とともに少なくなってしていくと期待されます。
これらの点が、私たちが「作業の証明」(PoW)を支持する理由です。それは公平で安全な取引を提供するだけでなく、既存の金融システムと比べても環境負荷が低いという点にもあります。
それでなく、「複雑な計算問題を解く」という意味での「作業の証明」以外にも、私たちはビットコインの自分たち自身が投資した採掘マシンだけでなく、お客様の投資した採掘マシン一台一台を丁寧に管理・運用しています。時にはシベリアやカザフスタンの寒い場所まで行き、採掘マシンの稼働状況を確認したり、新たなマイニング・ファーム(採掘マシンの管理・運用をするデータセンター)の開拓をしています。これら自体もかなり大変な作業で、そういう意味で「我々の仕事がビットコインの価値を支えている」と強く信じています。